こんにちは、にどねゆうきです。
以前DXの記事で紹介させて頂いた一冊、
元セールスフォースCMO・CSO ティエン・ツォさんの著書「サブスクリプション」。
デジタルトランスフォーメーションの本質は「顧客を商売の中心の据えデータを収集し、本当に顧客のためのビジネスをすること」が出来るようになり、そしてそれによってのみこれからの商売は上手くいくということが述べられていました。
しかし「言うは易し」ですが実際に顧客中心のビジネス、特にサブスクリプションビジネスを行っていくのは容易なことがありません。
自社でサブスクビジネスを始めようというとき、最大の障害はやはり社内でしょう。
社内全ての人間の仕事の仕方、仕事への価値観が大きく変わることになりますから、そこを乗り越えなければ変革を成し遂げることは出来ません。
それを乗り越えた業界のひとつが「映画・映像業界」。
大作主義を重ね、行き詰まりに行き詰っていた業界はサブスクビジネスにより息を吹き返しました。業界はどんな課題を持ち、そしてサブスクにより何が変わったのかを見ていきましょう。
本書の中で、私たちの大好きなゲーム業界(ビデオゲーム業界)と映画業界には「大作主義」という点で共通の考え方があるとされています。
ここでいう「ブロックバスター狙い」というのは「大作主義」のこと。
ブロックバスターというのは「巨額な製作費・宣伝費を投入した野心的な超大作映画(コトバンク)」を意味します。
しかしながら、たくさんのお金をつぎ込むということはなかなか失敗が出来なくなるということでもあり、その結果ヒット率を高める努力が求められてきます。
例えば恐竜映画ひとつ作るにしろ、ゼロベースで映画を作るよりも、やはり「ジュラシック・パーク」のシリーズ続編にする。当然注目されやすくなるでしょうから。
また、ゼロからアクション映画を作るのではなくアメコミ原作を用い「アベンジャーズ」のように共通の世界観を作ることで注目されやすくする。
そうした様々な工夫をすることで映画業界はヒット率を高め、多額の資金を投入することで大作を生み出してきましたが、これはクリエイティブな制作陣にとっては良い状況とも言えません。
こうした大作主義は「ハリウッドの商業主義」ともされ、映画製作者からも批判されてきました。
こちらは今から18年前、2003年のインタビュー記事になります。
当時の映画業界の空気感が伺えます。
商業主義が進むにしたがって、作り手が作品作りに集中することが難しくなり映画がどんどんつまらなくなっていく、ということを映画製作者は危惧しているというわけですね。
そうした動きは「シリーズものばかり」「似たような映画ばかり」という状況を生み出し、最終的に業界の衰退を招くと分かりそうなものですが、なぜこんなことになってしまったのでしょうか。
実はこれには流れがあります。本書の中でも大作主義、ブロックバスターについて触れられているので読んでいきましょう。映画黎明期から物語は始まります。
ここで述べられているように「ハリウッドの黄金時代に百花繚乱、色んな作品が自由に生まれることが出来た」のは「毎日毎週のようにみんなが映画館へ行っていた=映画業界の収入が非常に大きかった」ためでした。
まさにこんな感じの映画が流れていた時代ですね。
当時は「ニュース映画」というものが長編映画にあわせて放映されていたほど、映画館は身近なものだったのです。その時代と、のちのテレビが普及し人々が毎週映画館へ行かなくなった時代では映画ビジネスの仕組みが全く変わってきてしまったのですね。
その結果として「一発大きく当てて、それのテレビ放送やグッズ展開・海外展開などで儲ける」ことで映画ビジネスは存続していくことになったのです。
この一連のストーリーをひっくり返せば、安定してお金が映画業界に入るシステムがあれば、ハリウッド黄金期のように多種多様な作品作りが出来るということにもなります。それをついに実現したのが昨今の動画配信サービスです。
特にネットフリックスはオリジナルコンテンツの制作による差別化戦略を採っていることもあり、今はかつてなく多様な映像作品が作られる時代となりました。
また映像制作に関係する機材の進化・技術の進化もあり、そのハードルも大幅に下がっています。
そして視聴者は配信サービスのすべてのライブラリの中から好きな映像をいつでも・どこでも見ることが出来るのです。
再び形を変えてハリウッドの黄金時代改め、映像コンテンツ制作全般の黄金時代がやってきたといえるでしょう。それは多様な作品作りに関われる制作陣にとってはもちろん、私たち視聴者にとってもたくさんの魅力的な作品と出会えることを意味します。
インターネットやサブスクビジネス、様々な技術・商流の進化によって作り手と受け手お互いにとっての幸福な時代が始まりました。
これと同じ流れは音楽でも起こっており、音楽配信サービスやYouTube、ニコニコ動画などをきっかけにたくさんのアーティストがその才能を花開かせています。
この変化はこれからさらに波及していくのでしょうか。あるいはその変化はもう起こっているのでしょうか。
これまでビジネスはカルチャーにとっての邪魔者であり、厄介だという一面も確かにありました。
しかし時代は変わりました。これからはビジネスがカルチャーにポジティブな影響を与えていくことが私はとても楽しみです。
以前DXの記事で紹介させて頂いた一冊、
元セールスフォースCMO・CSO ティエン・ツォさんの著書「サブスクリプション」。
デジタルトランスフォーメーションの本質は「顧客を商売の中心の据えデータを収集し、本当に顧客のためのビジネスをすること」が出来るようになり、そしてそれによってのみこれからの商売は上手くいくということが述べられていました。
しかし「言うは易し」ですが実際に顧客中心のビジネス、特にサブスクリプションビジネスを行っていくのは容易なことがありません。
自社でサブスクビジネスを始めようというとき、最大の障害はやはり社内でしょう。
社内全ての人間の仕事の仕方、仕事への価値観が大きく変わることになりますから、そこを乗り越えなければ変革を成し遂げることは出来ません。
それを乗り越えた業界のひとつが「映画・映像業界」。
大作主義を重ね、行き詰まりに行き詰っていた業界はサブスクビジネスにより息を吹き返しました。業界はどんな課題を持ち、そしてサブスクにより何が変わったのかを見ていきましょう。
- ハリウッドにおける「ブロックバスター狙い」
本書の中で、私たちの大好きなゲーム業界(ビデオゲーム業界)と映画業界には「大作主義」という点で共通の考え方があるとされています。
デジタル・トランスフォーメーションがビジネスを製品中心から顧客中心に変え、顧客と企業の関係を変えるものだとすれば、全体としての企業の機能も変わることになる。
2つの業界にはいくつかの類似点がある。
ブロックバスター狙いのハリウッドはシリーズ方式で展開しているが、大型ゲーム・ブランドもシリーズ方式であり、収入のかなりの部分は発売直後に前倒しで発生し、伸るか反るかの週末の売上に大きく依存している。(p188,ティエン・ツオ,ダイヤモンド社,2018)
ここでいう「ブロックバスター狙い」というのは「大作主義」のこと。
ブロックバスターというのは「巨額な製作費・宣伝費を投入した野心的な超大作映画(コトバンク)」を意味します。
しかしながら、たくさんのお金をつぎ込むということはなかなか失敗が出来なくなるということでもあり、その結果ヒット率を高める努力が求められてきます。
例えば恐竜映画ひとつ作るにしろ、ゼロベースで映画を作るよりも、やはり「ジュラシック・パーク」のシリーズ続編にする。当然注目されやすくなるでしょうから。
また、ゼロからアクション映画を作るのではなくアメコミ原作を用い「アベンジャーズ」のように共通の世界観を作ることで注目されやすくする。
そうした様々な工夫をすることで映画業界はヒット率を高め、多額の資金を投入することで大作を生み出してきましたが、これはクリエイティブな制作陣にとっては良い状況とも言えません。
こうした大作主義は「ハリウッドの商業主義」ともされ、映画製作者からも批判されてきました。
こちらは今から18年前、2003年のインタビュー記事になります。
当時の映画業界の空気感が伺えます。
「(ハリウッドの映画会社は)小粒でも個性的で深みがある作品より、話題や注目を集めやすい(安直な)娯楽大作に2億5000万ドル(約242億5000万円)の製作費を投じることを重視している」
「とりわけここ5年間の(ハリウッドの)映画製作の状況の悪化ぶりは最悪と言っていい。監督の扱われ方がどれほど酷くなったことか。金を持っているやつらが屁みたいなことを決めるという恐ろしい状況になってる。やらかしているのはハリウッドの映画会社じゃない。映画の製作費などの資金を調達しているヤツらだよ」
「今のハリウッドは若い作り手たちの(斬新な)アイデアを亜流扱いしている。これは大変危険なことだ。(そのせいで)いずれ内部崩壊か大きなメルトダウンが起きるはずだ。3作か4作、あるいは6作ほどの娯楽大作が立て続けに商業的大失敗を記録し、大きなパラダイムシフトが起きるはずだ」
(行き過ぎたハリウッド商業主義 スピルバーグ&ルーカスの“爆弾発言”で物議)
商業主義が進むにしたがって、作り手が作品作りに集中することが難しくなり映画がどんどんつまらなくなっていく、ということを映画製作者は危惧しているというわけですね。
- テレビの登場、映画館の衰退がブロックバスター主義を招いた
そうした動きは「シリーズものばかり」「似たような映画ばかり」という状況を生み出し、最終的に業界の衰退を招くと分かりそうなものですが、なぜこんなことになってしまったのでしょうか。
実はこれには流れがあります。本書の中でも大作主義、ブロックバスターについて触れられているので読んでいきましょう。映画黎明期から物語は始まります。
(にどね注:1920年後半から60年代初めのハリウッドの黄金時代を指して、その当時は)ヒット作の収益が失敗作のコストを埋め合わせるというポートフォリオ効果があった。
もちろん、興行収入が今日よりはるかに安定していたときの話だ。当時、ほとんどの米国人にとって、映画館に行くことは毎週または毎日繰り返されるお決まりの行動だった。
映画スタジオは予測可能なビジネスを行っていたと言える。
しかしその後テレビの時代が到来し、映画製作の賭け金は突然高騰した。
人々が映画館に足を運ばなくなったのだ。
(中略)
映画産業は60年代半ばには苦しい状況に追い込まれた。
しかし、(中略)
「ジョーズ」や「スター・ウォーズ」などが登場するに至って、ブロックバスター(大作主義)がハリウッドのビジネスモデルとして確立した。
すなわち、まずヒット作を世に送り、テレビ放送のライセンスやフィギュアや小説化、ハロウィーンの衣装や菓子などの関連商品などから収益を上げるというものだ。
海外市場の拡大とDVDブームも、数少ないドル箱映画に大金を賭けるという発想に拍車をかける効果しかもたらさなかった。実際、ヒット作から二次利用権収入を得る方法はたくさんあった。
(p62-63,ティエン・ツオ,ダイヤモンド社,2018)
ここで述べられているように「ハリウッドの黄金時代に百花繚乱、色んな作品が自由に生まれることが出来た」のは「毎日毎週のようにみんなが映画館へ行っていた=映画業界の収入が非常に大きかった」ためでした。
まさにこんな感じの映画が流れていた時代ですね。
当時は「ニュース映画」というものが長編映画にあわせて放映されていたほど、映画館は身近なものだったのです。その時代と、のちのテレビが普及し人々が毎週映画館へ行かなくなった時代では映画ビジネスの仕組みが全く変わってきてしまったのですね。
その結果として「一発大きく当てて、それのテレビ放送やグッズ展開・海外展開などで儲ける」ことで映画ビジネスは存続していくことになったのです。
- 再び訪れた百花繚乱 「映画の新・黄金時代」
この一連のストーリーをひっくり返せば、安定してお金が映画業界に入るシステムがあれば、ハリウッド黄金期のように多種多様な作品作りが出来るということにもなります。それをついに実現したのが昨今の動画配信サービスです。
今日、私たちはメディアの新しい黄金時代にいるようだ。多くの点で、古いスタジオシステムの全盛期に似た空気が漂っている。
アーティストにはもっと対価が支払われる必要があるものの、より多くの聴くべき音楽があり、より多くの観るべき新しい映画や番組がある。
ブロックバスターの考え方から解放された新しいストリーミングサービスは、無理して最大公約数的なエンターテインメントを追いかける必要がない。
大通りにミニバンを走らせる宣伝でお金を無駄にしなくてもよい。リスクはスマートでエッジの利いたプロジェクトの制作で取ればよいからだ。
「ストレンジャー・シングス」(SFホラー)、「トランスペアレント」(トランスジェンダーを扱ったコメディ)、「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」(女性刑務所の生活を描いたヒューマンドラマ)をプライムタイムのテレビで観る時代が来るなどということを誰が想像しただろうか。
(p66-67,ティエン・ツオ,ダイヤモンド社,2018)
特にネットフリックスはオリジナルコンテンツの制作による差別化戦略を採っていることもあり、今はかつてなく多様な映像作品が作られる時代となりました。
また映像制作に関係する機材の進化・技術の進化もあり、そのハードルも大幅に下がっています。
そして視聴者は配信サービスのすべてのライブラリの中から好きな映像をいつでも・どこでも見ることが出来るのです。
再び形を変えてハリウッドの黄金時代改め、映像コンテンツ制作全般の黄金時代がやってきたといえるでしょう。それは多様な作品作りに関われる制作陣にとってはもちろん、私たち視聴者にとってもたくさんの魅力的な作品と出会えることを意味します。
映画を1日最低1本は見る知人にNetflixオリジナルコンテンツの魅力について尋ねたところ、知人の弁舌は止まらなくなったが、要約すると以下である。●いつも脇役で見かけていた俳優が主役級に抜擢されているのを見つけたときの驚きと喜びが、映画ファンにはたまらない。
●取り扱っている作品の幅が広く深い。特に音楽もの(映画やドキュメンタリーなど)の充実は他の動画配信サービスとは比べものにならない。
●サブスクリプションサービスならではの気軽さで、レンタル店ではとても手を伸ばそうとは思わなかったような作品も視聴するようになり、またそうした作品の良さを知ることができた。
(ネットフリックスのオリジナル作品がスゴイ!大人向け「不気味&新感覚」3選 | 井の中の宴 武藤弘樹 | ダイヤモンド・オンライン (diamond.jp))
インターネットやサブスクビジネス、様々な技術・商流の進化によって作り手と受け手お互いにとっての幸福な時代が始まりました。
これと同じ流れは音楽でも起こっており、音楽配信サービスやYouTube、ニコニコ動画などをきっかけにたくさんのアーティストがその才能を花開かせています。
この変化はこれからさらに波及していくのでしょうか。あるいはその変化はもう起こっているのでしょうか。
これまでビジネスはカルチャーにとっての邪魔者であり、厄介だという一面も確かにありました。
しかし時代は変わりました。これからはビジネスがカルチャーにポジティブな影響を与えていくことが私はとても楽しみです。