こんにちは、にどねゆうきです。


今回もモニター・デロイトの「SDGsが問いかける経営の未来」という本より「CSV」についてみていきたいと思います。
CSVはデータのファイル形式ではなく、Creating Shared Valueということで「企業本来の目的を単なる利益ではなく共通価値の創出であると再定義」することですね。

SDGsが問いかける経営の未来
日本経済新聞出版
2018-12-20



一連のSDGs実現・ESG投資対応についての記事はこちら。






前回はCSVを高いレベルで実践しているユニリーバの事例について見ていきました。
ここまではアメリカ(GE,ウォルマート)、ヨーロッパ(ユニリーバ)について取り上げてきましたが日本においてはどうなのでしょうか。


  • 「三方よし」の落とし穴
CSVが提唱された当初、日本企業がどのような反応を示したかについて読んでいきます。


CSVが提唱された当初、日本企業の経営者からの反応は二分された。
CSVを経営上の取組みテーマとしてポジティブにとらえる反応と『CSVは日本企業が歴史的に取り組んできたことであり、昔からある「三方よし」を語っているに過ぎない』と新しいものではないという反応だ。

先に述べたようにCSV(1.0)はあくまで、「攻め」としての企業価値創造アプローチであり、昨今のグローバルな環境変化の中で重要な競争戦略の1つと位置付けるべきだ。

その観点では、グローバル市場で現在日本企業がどのくらい競争力を持って戦っているかを見れば、日本企業が取り組んできたものとCSVはまったく共通するとは言えないことは明らかだろう。(p33,モニターデロイト,2018)


ものすごい破綻してる論理な気もしますが、なかなかに耳が痛いです。


このような論に加えて、頻繁にキーワードとして登場する「三方よし」のとらえ方についても、現代における留意が必要な点があることをここで触れておく。

元々、近江商人の理念である「売り手よし、買い手よし、世間よし」で知られる三方よしは、売りての都合だけで商いをするのではなく、書いてが心の底から満足し、さらに商いを通じて売り手や買い手以外の人々の幸せにも貢献せよという考え方だ。

「三方よし」の本質は、確かにCSVに相通じるものがあるが、その「三方よし」の範囲をグローバルに広げ、かつ将来世代に対する責任というサステナビリティ/SDGsが問う時間軸を統合しない限り、「現代の世間」たるステークホルダーには根拠を欠いた自画自賛と映ってしまうことを見逃してはならない。(p33,モニターデロイト,2018)


言葉など変化していくものですし、日本語で日本経済の発展を願ってこの本を書いたのであれば、既存の枠組みを上手く使いながら最速でCSVの考えを日本企業にインストールしていくことに力を注いでほしいものですが、モニターデロイトの皆さまはどうもそうは思わなかったらしく、三方よしsageCSV ageで書かれています。

おじさん世代を説得するのに骨が折れるので、上手いことブリッジさせる表現を入れておいて下さるとありがたかったなあとミレニアル世代的には思います。
こんなん「世間よし」の取り方次第じゃないですか・・・。。どうせ日本人しか読まないので、世間には未来も含まれると言い切って欲しかったです(願望)


CSVと三方よしの違いについて、まずは「売り手よし」から見ていきましょう。


・物理的な責任範囲が広がる
これまでは「売り手」と言えば当然自社を指したが、近年ではその範囲が大きく広がっている。
子会社・グループ会社はもとより、グローバルに広がるサプライチェーンの上流の取引先の取引先まで含めて「売り手」と認識し、かつその周囲にある社会コミュニティとしての「世間」までを含めて、売り手としての責任を果たすことが求められている。

気候変動対応で、自社の直接的なGHG(Greenhouse Gas:温室効果ガス)排出量だけでなく、調達した部品を製造する過程や、販売した製品が使用される過程で排出されるGHGまで配慮しなければならないのは周知の通りだ。

加えて、昨今では人権保護の責任範囲も広がりを見せる。ある国内メーカーは、自社の生産拠点で働く外国人労働者(技能実習生)の人権保護責任が自社ではなく派遣会社にあると誤認し、海外の人権団体などから批判される事態に至った。(p34,モニターデロイト,2018)



続いて時間軸の件です。
例としてはコバルトの問題が出てきています。人権問題については、まさに日本が外国人技能実習生の件での当事者ですし、ウイグル問題などもありとても身近な課題ですね。例としてはAppleが挙げられています。


・現在だけなく未来にわたる責任が求められる
(中略)短期の経済価値の追求は結果として持続的な経済価値創出を阻害する場合もあり、長期で経済価値と社会価値の双方を創出することが求められている。

つまり三方にもたらすべき「よし」は未来に長く続くものが前提となっている。
たとえばアップル(Apple)は携帯電話のバッテリーで使用するリチウムイオン電池に欠かせない材料であるコバルトを算出するコンゴ民主共和国(DRC)で、国内紛争に関わる勢力の関与や児童労働といったリスクへの対策として、企業としては初めて、コバルトの全調達先リストを開示した。

さらに、鉱山現場の近隣地域で若者向けに鉱山以外の雇用機会を提供するNGO「Pact」と協同するなどして、地域開発を通じて、未来に向けた紛争リスクの低減を図り、NGOからの賞賛を獲得した。
また、そこで生まれたネットワークを基に現地の鉱山業者からの直接購入体制を構築することで、自社調達のコバルトのトレーサビリティ向上を実現するとともに、自動車電動化の時代に予想されるコバルト調達競争への布石としている。(p34,モニターデロイト,2018)


人権問題に対応しながら、未来に訪れるコバルト調達競争の先手を打つApple。流石です。


「世間」をより具体的に捉えることが求められる
CSRの初期より、「世間」は売り手と買い手以外の人々に加え、「社会」や「地球環境」等も含んで語られてきた。一方で、昨今のサステナビリティに対する関心の高まりやSDGsの登場から、「社会」や「地球環境」が含むテーマについて、一段解像度を上げて捉えることが求められている。

たとえばアウトドア企業のパタゴニアは、「地球環境」の中でも特に、オーストラリア・タスマニア島の野生地および野生生物の保護活動など生物多様性テーマに積極的に取り組んでいる。
これは野生地や野生生物の減少がアウトドア・アクティビティの魅力を低下させ、結果的に自社事業のリスクとなることを理解しているからだ。

加えて、アウトドア製品の製造・販売に伴う廃棄物の増加および環境や生態系に対する影響を低減させることを大義に、製品の修繕事業も行っている。
これは結果として、修繕による新たな事業機会の創出や顧客のリテンション強化につながっているのだ。

ここで紹介したアップルやパタゴニアほどの「三方よし」に取り組んでいる日本企業は限られる。CSVは日本企業にとって、これから本格的に挑むべきテーマであり、昔から取り組んできて、すでにクリアしているものではないのである。(p34-35,モニターデロイト,2018)


“あの界隈”っぽくなるので「解像度を上げて~」という表現があんまり好きではないのですが、
でもまさしく解像度を上げて、ですよね。環境問題と漠然と言うけれど、自社が解決しなければいけない社会課題はなんなのか。これはすごく大切なところだと思います。

パタゴニアのアウトドアグッズは別にタスマニア島だけで使われているわけではないですが、タスマニアの生態系が失われたりすると「アウトドア」というものへの関心自体が減るというのはあり得る話かもしれません。
いずれにせよ、漠然と募金しているだけでは本当にその企業が「経済価値を創造しながら社旗的ニーズに対応することで社会価値を“も”創造する」ことを実現していくのは難しいでしょうから、こうして焦点を定めて実行していくことはとても良い動きだと思います。
絞ったからこそ、より「社会価値と経済価値を同時に生む」動きへと繋がる可能性が出てきます。

またパタゴニアの修繕や不要になったものの店頭回収は有名ですが、これによりお客様は結果としてお店に足を運ぶことが出来ます。
商売においてお店に足を運んでもらう難易度ってものすごく高いですから、これが出来る流れを作り出しているのは強いですよね。回収系はこれが強いです。



日本人としては三方よしがsageられているような気がするのは若干イラッともしますが、
CSR的に企業活動の責任を果たすのではなく、儲けに通じる社会課題を設定し解決していくという意味で、従来の枠組みよりも尖ったものになっているのは事実。

次回はいよいよ、こうしたCSVへの取り組みをどう組織として行っていくかを考えていきたいと思います。



SDGsが問いかける経営の未来
日本経済新聞出版
2018-12-20