こんにちは、にどねゆうきです。


今回もモニター・デロイトの「SDGsが問いかける経営の未来」という本より「CSV」についてみていきたいと思います。
CSVはデータのファイル形式ではなく、Creating Shared Valueということで「企業本来の目的を単なる利益ではなく共通価値の創出であると再定義」することですね。

SDGsが問いかける経営の未来
日本経済新聞出版
2018-12-20



一連のSDGs実現・ESG投資対応についての記事はこちら。





前回の記事で紹介した「フロアー全体を傾けてきたっ…」的なGEとウォルマートのCSVについては、こちらの図(p30図7,モニターデロイト,2018)が分かりやすいのではないかと思います。
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要するに「機能」「品質」「価格」で戦っていた旧来の訴求ポイントに、
新たな訴求ポイントとして「社会課題解決力(大義力)」や「ルール(秩序形成力)」を追加。
これにより他社との差別化戦略を図ります。
そして、単なる差別化ではなく確実にみんながついてくる「大義」なので結局は勝てると。そして何が大義かというのは政治に働きかけて既成事実化します。怖いわ。すごいわ。

さらに、一度優位をとったからといってそれが永続出来るわけではないので、この優位性を継続する力として「組織知(再現力)」が挙げられています。



  • ユニリーバのCSV:長期経営ビジョン サステナブル・リビングプラン
さて、このCSVを先進的に実践している企業として本書ではユニリーバも例として挙げられていますので読んでいきましょう。


ユニリーバが実践する新しい経営モデルの軸となるのが、2010年に導入した長期経営ビジョンであるサステナブル・リビングプランだ。ここでは、2020年までに「10億人以上がよりすこやかな暮らしをできるよう支援する」「製品のライフサイクルからの環境負荷を半減する」「製品の原材料とする農作物で100%持続可能な調達を実現する」とした3つの目標を設定している。

さらにこれらを通じ、「環境負荷を半減し、社会に貢献しながらビジネスを2倍にする」ことを宣言したのは画期的だ。

ビジネスを2倍にすると宣言している辞典で、サステナブル・リビングプランが単なるCSR目標でないことは明らかである。現に、当プランが同社CEOのポール・ポールマン氏自らが競争力強化の源泉であることを明言しているだけでなく、ユニリーバ全体の売上成長分のうち、実に約70%をサステナブル・リビングプラン関連商品で占めるまでの成果につながっているというのだ。(2017年時点)

このような経営モデルの変革に挑んできた背景には、トップマネジメントによる明確なコミットメントと経営変革に対するリーダーシップがあったのは言うまでもない。(p31-32,モニターデロイト,2018)


文中のポール・ポールマン氏は2018年末にはユニリーバのCEOを退任されて、企業をSDGs活動に向き合わせる団体「Imagine」を設立し活動されています。
この団体の資金はポール・ポールマン氏の個人資金ということで驚きです。





こちらのpwcのサイトに掲載されているポール・ポールマン氏へのインタビュー記事もとても興味深い内容です。ぜひご覧ください。







  • 持続可能なパーム油におけるユニリーバのしたたかさ

引き続き本書を読んでいきましょう。


ポーラルマン氏は、自身の考え方を次のように述べている。
「企業は機能不全に陥った経済システムの修繕に取り組まなければ、いずれ事業を継続できなくなるだろう。傍観を決め込む選択肢はなく、長期的視点に立ったビジネスモデルを作り上げる責任がある」。
(中略)
同社がここまでサステナビリティにコミットするのは、先に挙げた「大義力」と「秩序形成力」が加わることによる競争軸の変化をいち早く検知したからだ。

そのきっかけであり、同社の取り組みの中でも象徴的な例の1つが、RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)の立ち上げを通じたサプライチェーン変革と調達上の競争優位の構築だ。
RSPOは、環境や人権などに配慮され精算された持続可能なパーム油を認証する組織であり、ユニリーバが2004年に国際NGOのWWF等と組んで立ち上げた。2018年現在では約3300の団体がRSPOに加盟している。

ユニリーバはこのRSPO立ち上げの中で、かつて自社がNGOからバッシングを受け厳格に整備した調達基準を、RSPOを通じて業界全体が準拠すべき基準へと昇華させた。そして、並行して自社の厳格な調達基準に敵う持続可能なパーム油の先行確保を「したたかに」進めた。(p32,モニターデロイト,2018)


いや怖いよ。怖いよユニリーバさん。
しかしながら、地球のためにもなる(=大義がある)し自社のためにもなるしで見事な戦略です。
世の中は世の中のためを思っての行動をしていくと、気がつけばユニリーバを有利な状況にしているという。
これもユニリーバが率先して旗を振ったからこそですね。

この戦略、政治的な影響力も行使する必要があるので現在市場において影響力のある超大手だからこそ出来るという面もあります。

非常に素早い動きでスタートアップが次々と現れてくる中、大手が取るべきなのはスタートアップの真似事ではなくこういった大手にしかできない戦い方なのかもしれません。


ユニリーバの戦い方は、経済価値を創造しながら社会的ニーズにも対応することで社会価値をも創造するというCSVそのものだ。

しかも注目すべきは、ユニリーバが、大義の下に集う他のプレイヤーとともに新たな社会秩序の創造を自らリードすることで自社の競争優位強化を仕掛けるという、新しい戦い方を見せている点にある。

この戦い方こそまさに競争優位の源泉としてのCSVである。かつ、このような新たな戦い方がグローバル市場で持続的競争優位を作りづけていくために有効であることを、組織として腹落ちしているからこそ、「土台」まで含めた新しい経営モデルへの変革が先進的に進められているのだ。(p33,モニターデロイト,2018)


なんでもそうですが、新たな変革を行っていく際に必須なのは「一人ひとりの従業員にその戦い方が腹落ちしていること」です。
単に経営層が旗を振っただけでは実行性を伴いません。ピントがずれます。

一人ひとりがその目的を腹落ちしているからこそ、それに向かってそれぞれが本気で目標を追いかけ、そして成果をあげることが出来るのです。

その点でユニリーバは本当に見事で、一連のRSPOを主導したメンバーは間違いなく最終的に自社の利益に繋がることを確信していたでしょう。だからこそやり遂げることが出来たのではないかと思います。
このようにSDGsと向き合う経営をしていく中では、新たな戦い方をインストールする中で組織をどう動かしていくかということがとても大事になってくるといえます。




SDGsが問いかける経営の未来
日本経済新聞出版
2018-12-20