こんにちは、にどねゆうきです。

前回の記事では、2050年のカーボンニュートラル目標に向けて
金融市場におけるESG投資という環境変化もあり、
わたしたちの日々の企業活動においてもCO2削減が急激に求められるようになるということを考えました。




色んな意見はあるかと思います。
とはいえやはり地球が持たん時のなかではあまり悠長なことを言っている間はありません。

CO2削減なんてボランティア的なやつだろう、と思っていたとしても、世の中の仕組みが「温度上昇1.5℃未満」「2050カーボンニュートラル」と上から変わっていってしまっているので、とても近い将来わたしたちもこうした変化に対応していくことが求められます。



今回はモニター・デロイトの「SDGsが問いかける経営の未来」という本より「CSV」という新たな考え方について考えていきたいと思います。

SDGsが問いかける経営の未来
日本経済新聞出版
2018-12-20




  • 2019年当時はいまいちピンとこなかったこの本
実はわたしこの本、2019年初頭ぐらいには買っていて当時も読んでいたのですが、その当時は正直ピンときませんでした

ひとつは私のビジネスに対する意識が短期的なものでありすぎたこと。
目の前のマーケ施策を追いかけているような状態で、長期的なビジョンについて十分に思いを巡らせられなかったのかもしれません。

そしてもう1つは環境問題と企業活動の関係性の理解です。
もちろん環境対応が非常に大切なのだろうなということは当時も分かっていたのですが、ビジネスとSDGsが不可分なものとなっていく絵が描き切れておらず、「ボランティア」か「マーケティング」的なものだろう、という先入観を持っていたのではないかと思います。

それに当時は「世の中ががらっと変わることなんてそうそうないだろう」という思い込みがあったのではないかとも思います。

ですが今は2021年。
コロナ禍での世の中の激変もあり、この先の未来は現在の延長線上ではないということが身をもって理解出来ました。そして菅首相の2050カーボンニュートラル宣言もあり、ようやくビジネスのルールが今後大きく変わっていくことが腹落ちしたのです。



今わたしが書いているこの文章が何となくピンと来ない方も、おそらく近いうちにどこかでそのきっかけがあるかと思います。

環境省はもちろん、金融庁なども含めすべての省庁がこの新しいルールでのビジネスに向けての整備を目下進めており、それにより皆さまの仕事に影響があったときに大きく驚かれるのではないでしょうか。


  • CSRという考え方
CSRについては社会の授業でやるかと思いますが、「Corporate Social Responsibility」の略です。日本語に訳すと「企業の社会的責任」となります。

CSRというとなんだか「ボランティア」みたいなイメージがあると思うのですが、日本語で文字通り「企業の社会的責任」と読んだ方が意味としては理解しやすいのではないかと思います。

企業の社会的責任。企業が自社の利益を追求するだけでなく、自らの組織活動が社会へ与える影響に責任をもち、あらゆるステークホルダー(利害関係者:消費者、取引関係先、投資家等、及び社会全体)からの要求に対して適切な意思決定をすることを指す。日本では利益を目的としない慈善事業(寄付、ボランティアなど)と誤解・誤訳されることもある。(
Wikipediaより)

ISO26000というCSRについて定めた規格がありますのでこちらについても紹介します。

ISO26000  【英】Guidance on social responsibility  [同義]社会的責任に関する手引 

2010年11月1日に発行された社会的責任に関する第三者認証を目的としないガイダンス規格。正式名称は「社会的責任に関する手引き」。

社会的責任関するガイダンスは、健全な生態系、社会的平等及び組織統治の確保の必要性に対する認識の高まりを反映するものとして定められた。

あらゆる組織を対象に、
7つの原則(説明責任、透明性、倫理的な行動、ステークホルダーの利害の尊重、法の支配の尊重、国際行動規範の尊重、人権の尊重)

中核主題(組織統治、人権、労働慣行、環境、公正な事業慣行、消費者課題、コミュニティへの参画及びコミュニティの発展)を設定している。

環境としての主題は、組織の規模にかかわらず環境問題に取り組むこと及び予防的アプローチを求めている。課題としては汚染の予防、持続可能な資源の利用、気候変動の緩和及び対応、環境保護、生物多様性及び自然生息地の回復をあげている。

ISO26000は、組織の持続可能な発展への貢献を助けること及び組織が法令遵守以上の活動に着手することを奨励することを意図している。(環境用語集より)

ものすごい要約するとWikipediaもISO26000も、
利益の最大化とは別に、企業活動のなかで生じる様々な社会的責任を適切に果たすのだよということについて述べています。


これは極端な例ですが、足尾銅山鉱毒事件のように企業活動の中で社会にマイナスの影響を与えることが発生したとき企業はその責任を取らなければいけないし、そもそも発生させないのが責任だということですね。




これから「CSV」という考え方を見ていきますが、CSRは企業の社会的責任ですから、CSVでビジネスを進めてくうえでもCSRはCSRで果たさなくていいということには全くありませんので念のため。


  • CSVという考え方
ここからは本の内容を読んでいきたいと思います。


CSVはハーバード大学のマイケル.E.ポーター教授らが中心となって提唱する、「経済価値を創造しながら社会的ニーズに対応することで社会価値を“も”創造する」という、企業価値創造の新たなアプローチと定義される。

ポーター氏が社会価値に目を向け、「競争優位の戦略的フィランソロピー(社会貢献活動)を提唱したのは2006年。その後2011年に「共通価値の戦略」を発表した。

企業利益を最大化するための競争戦略論の大家であるポーター氏が、「企業本来の目的は単なる利益ではなく共通価値の創出(=Creating Shared Value)であると再定義すべきである」とした点がポイントである。

CSVはサスティナビリティの底流が企業経営に波及し始め、社会価値を企業経営の根底に据えるあり方を、SDGsに先行して問いかけた、象徴的なキーワードと言えるのだ。

CSVは、CSRとの対比で表現されることが多い。
一般的に、CSRは企業戦略とは別に位置づけられ、本業とは別予算で行われるものととらえられがちであるのに対して、CSVは企業の競争に不可欠であり利益創出の源泉としての活動であると明確に定義される点が大きな違いである。
端的に言えば、CSRでは社会の一員として企業が“善い行い”をすることがゴールであったが、CSVでは社会価値と同時に経済価値を創造することが必須なのだ。

このようなCSRとの対比から明らかなように、CSVはCSRの延長線上にある概念ではない。
CSVは、グローバル競争環境において、市場の激しい変化に受け身になるのではなく、自ら市場創造をリードするためのイノベーションを仕掛ける戦略的活動であり、企業価値を能動的に創造するアプローチととらえられるべきなのだ。(モニター・デロイト,2018,p27-28)


(参考図:モニター・デロイト,2018,p28図6)
20210620_091530


これだけだと「共通価値の創出・・・???」なんかすごいこと話してるんだろうな感で終わってしまいますので、GEやウォルマートの例を見ながら考えていきましょう。

  • 新たな勝ちパターンを築いた企業から考えるCSV
具体例を見ていきましょう。


21世紀以降、先進国企業が直面してきたグローバルな経営環境の変化は、20世紀までの市場での企業戦略のあり方(=戦い方)を無効化するほどに大きいものである。
(中略)
CSVのアプローチによりグローバル市場で新たな競争優位を構築している先進企業が存在している。
彼らの新たな戦い方は、10年ほどの時を経てようやく、その戦略的意図が明らかになってきた。
この新たな戦い方における勝ちパターンの公式は、「(1)大義力×(2)秩序形成力×(3)再現力」にある。
CSV先進企業は、20世紀型の戦い方である製品/サービスの機能・品質・価格の訴求に上乗せする形で、
(1)製品/サービスの普及を通じて社会課題解決を実現するという「大義」を高らかに掲げる力(=大義力)を向上させ、その魅力を訴求することで消費者だけではなく、政府機関やNGO等、社会を構成する多様なプレイヤーを大義の下に束ねるとともに、
(2)その実現を促進するためのイノベーティブなビジネスモデルやルールを提唱し、新たな社会秩序をしたたかに構築することに挑むことで、成長市場の形成とそこでの競争優位の構築を狙い、かつ、
(3)このような新たな戦い方を経営サイクルに埋め込み再現可能な形で自社の新たな競争優位の量産を着々と進めてきているのである。
(モニター・デロイト,2018,p29)


これを読むと「あー・・・分かるような気がする」と感じます。
というか、今まさに温室効果ガスの件で私たちはゲームチェンジを強いられているわけですが、これこそまさにヨーロッパの企業が掲げた大義です。

見事に政府機関やNGO、社会を構成するプレイヤーが大義の下に束ねられてます。

再生原料、クリーンエネルギー、原子力ゼロ、ガソリン車廃止...
日本の産業を根底からひっくり返すようなゲームチェンジが次々とヨーロッパから現れています。

まさに「このフロアー全体を傾けてきたっ・・・!」

katamuke


これをヨーロッパの陰謀とか言うつもりは全くなくて、ゲームチェンジで「これ大事やで」となったテーマは現実に存在する社会的課題でもあるわけですね。
ただ、もしかしたらほったらかしにしていたらこれらの課題と人類が向き合うのはもっともっと先になっていたものなのかもしれない。なんでも問題は先送りにしたくなってしまうものですからね。

ところが敢えてこれときちんと向き合うことで、先に向き合った者にはビジネスチャンスが舞い込む
なんでそんなことが出来るかというとそれは大義があるからで、最終的には世の中がみんなついてくるからですね。



これらにより、競合企業の製品機能・品質・価格による20世紀型の戦い方を無効化し、コモディティ化が進む市場の周囲で既存のルールを変えながら新たな市場を発掘・拡大し、当該市場において構造的な競争優位の仕組みを創り出す競争を仕掛けているのだ。

たとえば、GEは2005年に「エコノミー」「エコロジー」と「イマジネーション」の融合を意味する「エコマジネーション」をテーマとした社会的創出型の事業成長モデルを確立した。

この中で同社は、地球環境問題解決という「大義」の下に賛同した多くの環境NGOや環境保護を推進する政府・市民の後押しを受けて、アメリカ市場に環境対応に関する「新秩序」を形成することで、環境ビジネス市場拡大と自社の競争優位なポジション取りを狙ったのである。

このルール(新秩序)導入自体は苦戦したものの、結果的にオバマ政権がグリーンニューディールを掲げ、環境事業に対する様々な促進策・補助策を引き出すことにつながった(ちなみに当時のGEのCEOであるジェフ・イメルト氏は2011年にオバマ政権の「雇用と競争力に関する大統領諮問委員会」の議長に就任した)。

エコマジネーション以前のGEの環境関連事業の全世界での売り上げは、2004年100億ドル(
対全社比8%)であったのに対し、2011年は210憶ドル(対全社比14%)に倍増。エコマジネーションにより1兆円を超す事業成長を実現したのである。

また、ウォルマートは、環境問題に対する圧倒的な達成水準を掲げることで、あらゆるステークホルダーを巻き込んだサスティナビリティの巨大潮流を巻き起こしている。ウォルマートは「ゼロウェイスト」や「ゼロエミッション」「サステナブル商品の販売」という3つの達成目標に向け、環境問題解決という大義の下に世界10万社の取引先を巻き込み様々なプログラムを展開している

中でも特に注目すべきは、ウォルマート等大手小売企業が扱う全製品の膨大なサステナビリティ情報の収集・分析を可能にし、サステナブル商品自体を定義するサステナビリティ・インデックスの測定を実現するために、世界の有力グローバル小売企業・サプライヤー・政府機関・NGO等と新たに立ち上げたザ・サステナビリティ・コンソーシアム(以下TSC)の活動である。

ウォルマートはTSCを通じて、サステナビリティ・インデックスに対応できない企業・製品はウォルマートの棚に並べない時代を創り出そうと試みている。これはまさに、TSCを介した「新秩序」の形成を梯子にした買い手の交渉力強化だ

環境という大義の下、企業ブランドのレピュテーションを高めるだけでなく、競争環境における自社のポジションをさらに強化し続けているのである。(モニター・デロイト,2018,p29-31)



ウォルマートもGEも怖っ!!!!

という感想が一番最初に出てきてしまいました。怖いよ、怖すぎるよ。
みんなが乗っかってくるようなアイデアを提案し、みんながそれについてくるといつの間にかウォルマートやGEのペースにのせられているという...

7年で1兆円以上の成長をさらっとやってのけるGEも半端ないですし、
「うちはサステナブルだから」「サステナブル大事やで」という大義を盾に最終的には仕入れのときの交渉の主導権を思い切り自分側に寄せているウォルマート。

「そんなんありかよ」というぐらいえげつない戦い方ですが、
ポーター教授は当然競争で強い戦い方を賞賛しますので「考えた人すごいわ」と称賛しています。



そんなカイジの沼対策的なゲームチェンジ戦略「CSV」。
次回はこれを高いレベルで実行しているユニリーバの事例を考えていきます。



SDGsが問いかける経営の未来
日本経済新聞出版
2018-12-20